独誌 Spiegel のベストセラーとして割と有名な Marc-Uwe Kling の作品『Die Känguru Chroniken カンガルークロニクル』(2010)をご紹介します。
作者
Marc-Uwe Kling は、1982年シュトゥットガルト生まれの作詞家・政治寄席芸人(カバレティスト)・演芸家・作家。彼の作品では、「Qualityland クォリティランド」が邦訳済みです。
内容
「しゃべるカンガルーと同居する」という設定からしてナンセンス極まりないわけなんですが、このカンガルー、実は一体いつから生きてたのか分からず、カンガルーとしてはあり得ない年齢に達成しているらしいです。自称共産主義者で、社会批判的なうがったことを喋り捲ります。また、同居人 Marc-Uwe に生活費一切を出させて、家事もやってもらって好き放題に暮らしてますが、携帯の着メロや怪しげな電話サービスでお金儲けしてたりします。共産主義者?
とまあ、こういう感じのシュールなカンガルーと同居する日常が日記のようにつづられています。ナンセンスなものが好きな人には非常におかしい作品かと思います。
ただし、スラング、言葉遊びやベルリン方言、英語ちゃんぽん、ネタ元がよく分からない内輪受け?のようなものなどもかなり多く、非常に翻訳しづらいものなので、邦訳が出ていないのも納得できる感じです。
私自身、翻訳できるかどうかというのを考えながら読んだのですが、結論から言えば「無理」です。いろんな解説・訳注付きで翻訳することは可能でしょうが、そうすると日本語しか知らない読者には面白くないのではないかと思いますね。原作のユーモアをよく理解したうえで、日本語的ユーモアに移植する、つまり、翻訳というよりは原作に基づく創作が必要になって来る感じです。
ドイツ語学習者の方にとっても、チャレンジングな作品です。現代のドイツの(若者)文化をよく知らないと、何の暗示なのか、なんに対する当てこすりや皮肉なのか、といった表面上にはいまいち表れていない意味を理解することができないでしょう。
そういう深い理解ができないとなると、この作品の半分近くが退屈になってしまいます。半分くらいは状況の不条理さ、ナンセンスさで笑えたり、少なくともニヤッとすることはできますけどね。10年前に発行されたものなので、その頃話題または問題になった事件や政治的状況などの知識も必要なので、「ドイツの今」を学ぶ上ではあまりお勧めはしません。もうちょっとタイムリーな作品の方がいいような気がしますね。
続編
これには続編があります。
2巻 Das Känguru-Manifest (2011)カンガルー宣言
3巻 Die Känguru-Offenbarung (2014) カンガルーの啓示
4巻 Die Känguru-Apokryphen (2018) カンガルー聖書外典
実は全巻買ってあるのですが、積読本と化しています。
このうち3巻までは Triologie(3部作)としてのまとまりがあり、4巻はあくまでも番外編という位置付けです。しゃべるカンガルーの正体に迫る(?)秘密の引き出しからのストーリーが収録されています。
面白そうだとは思うのですが、積読本がすでに100冊を超えているため、なかなか読むに至りませんね。
もしあなたが2巻以降をお読みになりましたら、感想などをお聞かせくださいませ。