今回はフェルディナント・フォン・シーラッハの自伝的エッセイ集『Kaffee und Zigaretten(コーヒーとたばこ)』(2019)をご紹介いたします。
刑事弁護人にして小説家である著者がいかにしてそのようになったのか、その過程がうっすらと仄めかされています。なので、「Autobiographie 自伝」とは言えないのですが、彼自身の幼少期・青年期の思い出やその他、彼の人生の中で出会い、考え・感じたことなどが時に日記のように、時にただのメモのように、時に掌編小説のように描写されています。
要するに「コーヒーを飲み、タバコを吸いながら」考え、感じ、話したことをつらつらと書き綴ったようなものです。
本書のドイツにおける Rezensionen 書評は評価が極端に割れています。シーラッハのファンでも「自伝的作品」と聞いて興味を持ち、がっかりしたという方も少なくはないようです。
恐らく、文章が短く、言葉少なに様々なことが語られているため、読者にかなりの知識と想像力を要求するのだろうと思います。
うっかりさらっと読み流すと「だから何?」という疑問がわいてきてしまいますが、彼が何を見て、何を体験して、何を感じ、どのように考えて弁護人になり、かつ弁護人であり続け、さらにその体験談をもとに小説を書いたのか、また書いているのかを彼の語りと共に一緒に考えると、いくつかの新たな気づきが得られることでしょう。
特に現代の数人の政治家についてのエッセイでは、著者の政治的立ち位置・視点が興味深く、考えさせられます。日頃ニュースなどでジャーナリストたちの切り口に慣れ切っている向きには新鮮な感覚が味わえるかと思います。
未邦訳。