ウクライナ戦争、日本のメディアでは「ウクライナ侵攻」ということが多いですが、ニュースでたくさん報道・解説されているけれども結局よく分からないという方は少なくないのではないでしょうか。
もちろん完全にウクライナが「善」、ロシアが「悪」あるいはその逆の決めつけをしてしまうのは論外です。
けれども、メディアの報道に違和感を持つことは実にまっとうなことです。
この文脈でぜひご紹介したいのが、ウクライナ危機に関するドイツのメディアの実態を暴く二人のフリージャーナリストによる「Wir sind die Guten 我らは善人」です。
これには2冊あり、1冊目は「Wir sind die Guten: Ansichten eines Putinverstehers oder wie uns die Medien manipulieren(我らは善人。プーチン理解者の見方あるいはメディアの印象操作方法)」で2014年に上梓され、ウクライナの分裂した内情や「オレンジ革命」と呼ばれる「マイダン」のデモの背景、アメリカの地政学的関心について論じられています。
オーディブル版が比較的安く入手できますので、ドイツ語の勉強がてら聴いてみてはいかがでしょうか。
アメリカの地政学の父 Halford Mackinder の「Heartland-Theorie」(1904)ですでにウクライナは「ハートランド」に含めて論じられており、「ハートランドを制する者は世界を制する」と言われています。アメリカの地政学的戦略は基本的にはこのハートランド思想に従っており、直接的な侵略戦争はしないものの、様々な工作によって主要な国または地域をアメリカの影響下に置こうと画策しているのは周知の事実です。
本書では具体的にどのような工作がアメリカによってなされたのかを説明した上で、さらにドイツのジャーナリストたちにただならぬ影響力を持つ German Mashall Fund of the United States (GMF) や Atlantische Initiative、American Council for Germany 等の機関を挙げ、ドイツの主要メディアの偏向報道の理由を説明します。ここで拡散されるスタンスは「国際紛争への介入・軍備増強・親米」です。
本書の提言は、ドイツは親米一辺倒の反ロシア的政策ではなく、別の方法でウクライナが主権と自由を得る手助けをすべきということでした。
(実際には、ドイツはむしろ親ロシア的政策を取り、ロシアによるクリミア併合後なおウクライナの経済に不利になるようなNord Stream2パイプラインの開発を進めたのですが。。。)
同著者たちは、さらに2019年に「Wir sind immer die Guten: Ansichten eines Putinverstehers oder wie der Kalte Krieg neu entfacht wird (我らは常に善人。プーチン理解者の見方あるいはどのように冷戦が再来するのか)」を上梓し、痛烈な皮肉や非難を込めてウクライナ危機をメインストリームとは違う側から論じ、ウクライナが東西冷戦の舞台となることを警告しています。
ウクライナ人にとっては「Kalter Krieg 冷戦」ではなく「Heißer Krieg 熱戦」ですが、前世紀の東西冷戦も米ソが直接戦争をするのではなく、朝鮮やベトナムやアフガニスタンなど別のところで代理戦争が行われていたのと同様、現在もまた「ウクライナで代理戦争が行われている」と見なせるわけです。
本書も私もプーチンの行いに「賛同」しているわけではありませんので、念のため。
戦争のレトリックほど「正義」という言葉が飛び交うものですが、戦争ほど正義と無縁のものはないと私は思います。